軍用車として誕生してから65年。その血統を受け継ぐTJラングラーが10年振りにフルモデルチェンジを受けて6代目として国内に登場。その顔と風貌こそ、一見してジープとわかるものの、その中身はガラリと変貌。もはやジーを越えたジープに進化した。
スパルタンというか、妥協を許さない硬派の四駆の代名詞であるジープ。CJシリーズが消え、その後継として登場したのがYJラングラー。角目ヘッドランプのモデル。その後、AMCは87年にクライスラー社が買収。97年にTJとして丸目のラングラーが復活した。
そしてこの3月。ラングラー6代目が10年振りのフルモデルチェンジを受け日本国内に放たれた。しかもラングラーのロングホイールベースモデル、4ドアのアンリミテッドと合わせての日本デビューである。元々、軍用車として誕生したジープ、あらゆる地形を走破できることをコンセプトに生まれたクルマであり、その装備は単純で素朴。しかし時代が移り、本格クルスカントリーカーが風前のともし火状態となろうとしてる中、ジープは基本コンセプトを失うことなく、硬派の四駆を守りつつも現代SUVに進化している。
大抵の人間はジープを目の前にすると「野蛮な四駆じゃないか……」という。特に軍用ジープの精神を今に受け継ぐTJの場合、洗練されていない四駆というイメージが強い。ところが、歴代のジープに比べ、07モデルのラングラーはジープレベルでいうなら極上の贅沢装備を与えられたジープと言える。いまさらながら「パワーウインド装備」とプレスリリースに明記されていることは驚きであるが、多くのジープファンにとってパワーウインド装備は脅威であり驚きだろう。
07年モデルのラングラーシリーズは誰がみてもジープに間違いない。丸目ヘッドランプに7本スリットのラジエターグリル……。人によっては「どこが違うのか?」と思うだろう。だが、じっくりと眺めてみると、何やら、何処かが違う。エンジンフードはスラントし、象徴的なラジエターグリルも妙に平べったい。それに車幅も広いし、全長も長い。
07年モデルに搭載されているエンジンは146kw、315N・m発生の3、8?V6.。しかもOHV。日本の四駆ならDOHCエンジンが当たり前の時代、「何だ、一体?」と感じる人は少なくない。このようなことは以前にもあった。確か直6エンジン搭載のTJ、チェロキーの時も「いまさらOHVかよ!」ところが、このOHV直6は見れば見るほどハイメカチューンだったのである。今回のV6エンジンも同じだ。目新しさは特にない。
それよりも目を引くのはロングホイールベース4ドア。新たに日本の上陸したアンリミテッドである。リヤに高い居住性を持った4ドア。なかなかのスタイルだ。見方によっては先祖帰りととれないこともない。CJシリーズの時代、CJ−6というロングホイールベースモデルが存在していたからだ。(マニアックな話である)
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ラングラーはSUVというより乗用車?
さて、早速走りだしてみる。「おや、これは妙だ。ジープじゃない!」と、走り出した瞬間、これまでのTJとまるで違ったTJを痛感させられた。室内静粛性にも驚かされるが、もっと驚いたのは走行安定性の著しい向上だ。右へ左へとコーナーを走り抜けると、従来型のようなロールが発生しないのだ。その感覚は腰高ではあるが、まるでセダン。乗用車感覚なのである。「オイオイ、これで本当にジープかよ……」古くからのジープファンにとっては、目からウロコ状態になってしまうだろう。とにかく、ガタピシ感を感じさせたジープではなくなっている。その秘密は曲げ剛性100%、ねじれ剛性50%を向上させたフルボックス型フレームの採用。2ドアモデルで10個、4ドアで12個のボディマウントの採用と完全に見直されたフレーム構造を設定したことにある。また、5リンク式コイルサスペンションもステアリングジオメトリーを見直し、クイックでスムーズなサスとステアリングを実現している。
これらがオンロード走行で互いに相乗効果を発揮。ジープでありながらジープらしからぬ走行性能と操縦安定性をもたらしている。
今時このエンジン・排気量で燃費のことを考えると・・・手を出しにくいかも?!
ニューカマーのルビコンはマニアック好みの1台である
一方、今回新たに加わったラングラー・ルビコン。このモデルはまったくのマニアックアイテムと言っていい1台だ。優れたオンロード走行性能に加え、さすがはジープと呼びたいハイレベルの悪路走破性を与えられたモデルだ。電子制御によるフロントスタビライザーバー・デスコネクティング・アクティブスウェイバーシステムを装備し、オフロードではホイールストロークを延長する。果たして日本国内で役立つものか、そうではないかの判断はつけにくいものだが、タフなジープが新たな武器を身に着けたということだ。
生まれ変わっただけではなく進化を身に着けたジープ・ラングラー。イージーオフローディングが初心者にも気軽に楽しめるクルマになったことは間違いない。しかし、扱いを間違えれば無意識のうちに多大な自然破壊を行ってしまう凶器になることだってありえる。
高い悪路走破性と同時に、乗用車並みのオンロード性能を備えたジープ・ラングラー。オフで粋がるよりも、都会でカッコよく乗りこなしてもらいたいクルマである。
Written by 西村 光生