第20回 マークX・ジオ
隙間に打ち込まれた、クサビ的クルマ
五目釣りという、釣りの楽しみ方がある。五つの品目、種々のものが混合している様子を五目という。
マークX・ジオはその外観にマークXの面影はない。メーカーとしては、マークXの上質さ。洗練された高級感と優れた走行性能を注ぎ込んだ独立四座の未来型サルーンと位置づけている。果たして、そうなのだろうか……。
アレとコレ。ドレがソレ。クルマも色々あるけれど!
マークX・ジオの回りを一周。じっくりと眺めると「おや、このクルマ……」と、目を疑う。勢い込んでデビューした欧州Cセグメントモデルのブレイドに似ているではないか。
もし、仮にマギー司郎の手でブレイドのストレッチすると「おっつ、ジオじゃんか!」と、そんな雰囲気が感じられないことも無いような……。
搭載エンジンは基本が四気筒2.4リッター+スーパーCVT。プレミアム感覚のV6、3.5リッター+6速ETCが設定されている。2.4リッター車にはFFと4WDを設定。3.5リッター車はFFのみ。
キャッチコピーのXシーター。その秘密はリヤシート。常識的にリヤシートは三人掛け。しかしジオのリヤシートは真ん中にリヤコンソールが装備され、セダン感覚で見ると、その室内は十分過ぎるゆとりだ。シートのマジックはリヤシートの後方。そこに隠れたように三列目、大人二名が乗車可能な緊急用シートを備えているのだ。
一見すると、ブレイドのストレッチと思えるジオだが、その内装、雰囲気はマークX的である。キャッチコピーでいうXシーターはカタログ上の乗車定員は6人。リヤシートにコンソールの無いモデルも設定され、こちらは七名乗車となっている。
トヨタがターゲットユーザーとして狙いを定めているのは、子育てが終わった40代後半以上だという。と、言うことはセダンを知り、ワゴンを知り、ミニバンまでも知っている年代である。そこでジオをあらためてみると、これは大変だ。
セダンのいいトコ。ワゴンのいいトコ。ミニバンのいいトコ。ハッチバックのいいトコ。SUV的感覚のいいトコ。無理やり、五つで五目にしてしまったけれど、五目である。
つまり、釣りでいうトコの餌をユーザーの鼻先に投げ込んだのだ。
隙間の隙間にクサビを打ち込むかのようにである。釣れるか、釣られるかはまったくわからないのだが、トヨタのことである。
ホンダのナンダラカンダラの轍を踏むことはあるまい。と、そう思う。
上手いこと、やるもんだ。走りは優しく、しなやかなのだ。
V6、4気筒とも、その動力性能に文句はつけられない。
「これで2.4リッター?」と思うし「さすがだ、3.5リッターは!」と、言わざるを得ない。
特に、動力性能だ、走行性能だという前に乗せられ心地がいいのである。運転して不満はないし、乗せられて不満もでない。一列目、二列目は、その居住性の高さと余裕で購買欲を刺激するものがある。但し、三列目は、あのシートに大人が座ることは、曝し首免除の獄門刑。「お子様用、お孫さん向きですかね」と、人はいうが、未来ある子供を座らせたくはない。
多目的に使い別けのできる、ちょっと気取ったクルマという、そんな感覚を持ったクルマがマークX・ジオではないだろうか。
種々混合、混然一体。まぁ、こういうクルマもありなのだろうな。
ユーザーが五目なのか、それとも鼻先にぶら下げられた餌が五目なのか!
Written by 西村 光生
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