| |
|
第28回 このところの軽自動車は世界を征服するかも……。
1月にダイハツから新型タントが登場した。それ続くように三菱自動車からプラグインの電動モーターをエンジンの代わりとした電気モーターを搭載した三菱I、Mieveをお披露目した。そして、2月。スズキが新しいタイプの軽自動車ワゴンとしてパレットという名の新型車両を登場させた。
人によっては 「なんじゃい、また軽かい。もっと気の利いたクルマはあらんのかい!」
と、そんな非常識な言葉を吐く、バカヤローオヤジは少なくないらしい。
それはどうやら、いにしえのテレビコマーシャル「いつかはクラウン……」に影響されたオヤジ、叔父の親戚関係にある『今オヤジ』だということが、このところ判明したと、業界では噂に上っている。
今オヤジのクルマを見る目、クルマへの考え方を簡単に言うと『じょじょにいいクルマにステップアップさぁね……』と、言ってくれるのだ。彼らの頭の中にクルマに関してはステップアップはあるけれど、ステップダウンはない。 ステップダウンは許されないのである。 そんなクルマに対する見栄というか常識が軽自動車を見る目に色眼鏡がかかってしまうと言っても、それほど大きく間違ってはいないだろう。
このステップダウンは許されないという今オヤジなりの常識と色眼鏡感覚。こればかりはどうしようもない。
そんな、今オヤジも、クルマに憧れ、免許を手にしたあの時代、きっと最初のクルマは軽自動車だったに違いない。そうでなければ、やっとかっと動く、ポンコツと称されるオンボロな中古車ではなかったのではないだろうか……。
そして今オヤジがもし、中古の軽自動車や、ポンコツのクルマでクルマデビューを果たしたとすれば、考えられるのはステップアップである。もし、仮にベレルのポンコツがデビュー車ならコロナやブルーバードを目指したかもしれない。中古の軽自動車でデビューしたならホンダのN360やスバルヤングSSかもしれないし、ダイハツのフェローマックスを狙っていたかもしれない。とにかく目指すのはステップアップ。
以来、クルマは上を目指すものという、トイレの後には手を洗おう的な常識に包まれてしまったようだ。そんな感覚で軽自動車を眺めると、先の「なんじゃい、また軽かい……」ということになってしまうのである。これは、あくまで独断と偏見ではあるが、大きく外れてはいないと思う。
※
ダイハツ・タント
そこで軽自動車に話しを戻そう。
まず、ダイハツのタント。売りの目玉はピラーレス。フロントドア後方、スライドドア前方にあるのが常識になっている、あのピラーがない。ドアを開けると、そこは広すぎる出入り口となるのである。子育て中のお母さんにとってクルマの実用度という意味では「便利で使えるクルマ」ということになるだろう。また、それ以上に実用的な軽自動車という目で見ると、やはり便利という点で軽自動車の常識を打ち破ったということになるだろう。動力性能は必要にして十分。高速道路をかっとぶぞというクルマではないし、運転そのものを楽しもうという性格のクルマではないだけに、クルマの原チャリとも言うべき、使い勝手優先の軽ミニバンである。
※
I ミーブ Mitsubishi innovative Electric Vehicle
まだまだ、本気で販売するのは先のこと……。
と、三菱の広報は言っているものの、すでにナンバープレートを取得、実証走行試験車を持ち出して、都内で試乗会を開催した。
なんでこんな話をするか……。それはIミーブがプラグ・イン電気自動車だからである。新世代電気自動車なのだ、CO2ゼロで走る軽自動車。それがMIEVだ。
試乗に供されたのは三菱の軽自動車、アイ。 ところが、このアイはガソリンエンジンではない。ガソリンエンジン、ミッション、燃料タンクの代わりに電気モーター、インバーター、電池、充電器と電気自動車の部品を搭載している。
電池は高エネルギーのリチューム電池を床下に収納。モーター、インバーターは従来のエンジン、ミッションがあった場所に搭載した。ガソリンエンジン車同様、4人乗車ができる居住性は損なわれていない。
大容量のリチュームイオン電池は4個のセルで1モジュールを構成。モジュールを22個直列でつないで電池パックとしている。もっとも気になるのは走行距離。一回のフル充電で160kmの走行可能(10・15モード)としている。
モーターはエンジンに比べてコンパクト。小型、軽量、高効率な永久磁石式同期型モーターを採用。性能は660ccターボ付きガソリンエンジン上回っている。
実際に市街地を走ってみると、その動力性能はガソリン車並以上の実力を発揮、しかも、室内の静粛性は抜群。高級リムジン以上だ。逆に車外の雑音、騒音の大きさが耳障りに感じるほどだ。
環境に優しく、CO2は同クラスのガソリン車に比べ年間1トンも削減。また、ガソリンエンジンに比べ、走行にかかる費用を低減。昼間充電でガソリン価格の3分の1。夜間だと9分の1となる。
さて、充電だが、家庭用200V(15A)で約7時間でフル充電。100V(15A)だと14時間で充電可能。現在、電力会社などで開発中の急速充電器(3相200V?50kw)を使うと、約30分で80%の充電が可能となっている。
充電システムが充実すると、新世代電気自動車は「たかが軽自動車じゃねえか!」とは言えないクルマとなることは間違いないところである。
がんばれ! 三菱!!!
※
スズキ・パレット
「タントがピラーを取っ払っただと、それじゃウチは床を下げて天井を上げろ!」と、社長が命令を下したかどうか、それはスズキの社内でも、ほんの一握りの人間しか知らないことだったかも知れない。
「そんなの無理じゃないの。セルボでも苦労したわけだし、ちょっと脳みそを休めたい……」と、そんな愚痴も聞かれたかも知れない。
何が、どうなってパレットが誕生したのか……。確かに、タントとは別物の室内の広さを感じさせるクルマが登場した。クルマに乗り込むとき、そのフロアの低さが嬉しい。それはまるでオープンカフェの洒落た椅子に腰を下ろす感覚を思わせた。しかし、ドライビングポジションは低いわけではなく、視界の広さを損なわない位置に着座できる。
そして驚かされるのは室内高。確かに居住性に貢献していることに間違いはないが、高すぎると思わせるほど天井が高いのだ。カタログに小学生低学年の少女が、クルマの中で立ち上がっている写真がある。最初は冗談だと思った写真なのだが、身長130センチ程度の子供ならば立ち上がることができる。しかし、それが何の役に立つのか、これはわからないところであるが……。
※
ここで3台の新登場軽自動車を紹介したが、軽自動車こそ、まじめに日本のクルマを考えているクルマではないだろうか。今、軽自動車以上のクルマは日本国内をまともに見てはいないだろう。その証拠にクルマはどんどんと大きくなっている。
いわゆる5ナンバーサイズのクルマは今や少数派だ。
「やはり、アメリカマーケットを考えると、クルマは大きくなります……」
クルマを生産しているメーカーの人間に、こう言われてしまうと、もう、二の句が告げられない、残念ながら。
そこで軽自動車。真剣に真っ当に、日本の国情を大まじめに考えてクルマを開発し、生産しているとしか思えない。
ボディサイズが小さくて、どこが悪い!
エンジンが660ccでどこが悪い!
しっかりと走ってくれるじゃないか。まともに走ってくれるじゃないか。
人間だって4人は乗れるし、荷物だってしっかりと積める。
軽自動車のよさに早く気がつくべきだろう。外国が軽自動車に目をつける前に。
軽自動車は日本のオリジナル、日本発の優れたクルマなのだから……。
Written by 西村 光生
|
次回もお楽しみに! |
|
|
|
|